初めての案件では、チャットで条件を確認しただけで作業を始めてしまうことがあります。しかし、Web制作は途中でページや機能が増えやすく、「どこまでが料金内か」「何をもって納品とするか」が曖昧だと、受注者にも発注者にも負担が生じます。
契約書は相手を疑うためのものではありません。完成形、確認手順、支払い、権利、終了時の扱いを先に揃え、安心して制作へ集中するための設計図です。この記事では、Web制作フリーランスが特に確認したい5項目を、具体的な書き方とともに解説します。記事後半には、編集して使えるWord形式の契約書サンプルも用意しました。
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契約書だけでなく取引条件の明示内容も確認する
2024年11月に施行されたフリーランス法では、対象となる業務委託について、発注事業者は取引条件を直ちに書面またはメール・チャットなどの電磁的方法で明示する必要があります。契約書という名称でなくても構いませんが、契約書を交わしていても必要事項が抜けていれば十分とはいえません。
公正取引委員会が示す主な明示事項は、当事者の名称、委託日、業務内容、納品または役務提供の期日と場所、検査完了期日、報酬額と支払期日などです。まずは次の項目が契約書、発注書、見積書、メールのいずれかで具体的に確認できるかを見てください。
| 当事者と日付 | 発注者・受注者の名称、業務を委託した日 |
|---|---|
| 依頼内容 | 成果物、作業範囲、納品形式、納期、納品場所 |
| 確認方法 | 検収の有無、検査完了日、承認担当者 |
| お金 | 報酬額、消費税、実費、支払期日、支払方法 |
1. 作業範囲と成果物
最も多いすれ違いは、「Webサイト制作一式」「コーディング一式」のように作業範囲をまとめすぎることです。ページ数、対応機能、デザインデータの有無、WordPressへの組み込み、公開作業、スマートフォン対応などを分けて書きます。
コーポレートサイト制作一式
具体的な例
トップページ1ページと下層5ページのデザイン・HTML/CSS実装、WordPressへの組み込み、問い合わせフォーム1点、主要2ブラウザーの最新版での表示確認を含む。
含まれない作業も書いておく
契約に含まれない作業を明記すると、追加依頼が発生したときに説明しやすくなります。たとえば、原稿作成、写真撮影、ロゴ制作、サーバー移行、公開後の更新、SEO順位の保証は、必要に応じて別業務として扱います。
発注者から受け取る資料と期限を決める
原稿や画像の提供が遅れると、制作側だけでは納期を守れません。「原稿は○月○日までに提供する」「提供が遅れた場合は、遅れた日数を目安に納期を再調整する」と書いておくと、責任の所在が明確になります。
2. 報酬金額と支払い時期
総額だけでなく、消費税、振込手数料、有料素材やプラグインなどの実費、着手金の有無、請求書の発行日、支払期日まで確認します。「納品後に支払う」ではなく、「2026年10月31日」「毎月末日締め、翌月末日払い」のように日付を特定できる形にします。
フリーランス法の対象となる取引では、発注事業者は原則として、成果物を受領した日または役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を設定し、その日までに支払う必要があります。請求書の提出が遅れた場合の扱いも含め、発注時点で具体的な期日を共有しておくことが大切です。
工程ごとの金額があると中止時にも役立つ
「設計20%、デザイン30%、実装40%、公開10%」のように工程別の金額や割合を決めておくと、途中で案件が終了した場合の精算根拠になります。長期案件では、着手金や月ごとの分割請求も検討できます。
3. 修正回数と検収方法
単に「修正2回まで」と書くだけでは、何を1回と数えるのかが分かりません。「各工程で発注者が修正内容をまとめて提示したものを1回とする」など、数え方まで決めておきます。受注者の実装ミスや仕様との不一致を直す作業は、通常の修正回数とは分けて考えます。
修正と仕様変更を分ける
誤字の修正や余白の調整と、承認済みデザインの作り直し、ページ追加、機能追加は負担が異なります。後者は「仕様変更・追加業務」として、追加見積りと納期変更を発注者が承認してから着手する流れにします。
検収期限を設ける
納品後の確認が止まると、請求や次の案件にも影響します。「納品後5営業日以内に確認し、修正点があれば具体的に通知する」と決めます。期限内に連絡がない場合の扱いを定めるなら、発注者にも分かりやすく説明したうえで合意してください。
4. 著作権と成果物の取り扱い
制作費を受け取って成果物を納品しても、著作権が当然に発注者へ移るわけではありません。文化庁の著作権契約マニュアルでも、著作権を譲渡する場合は契約で明記する必要があると説明されています。
Web制作では、少なくとも次の4点を分けて考えます。
- 案件固有のデザインや文章:譲渡するのか、用途を限定して利用許諾するのか
- 汎用コードや制作ノウハウ:受注者が以前から保有する部分を権利移転の対象外にするか
- 第三者素材:写真、フォント、テーマ、プラグインのライセンス条件を誰が管理するか
- 制作実績:ポートフォリオやSNSへ掲載できる範囲と公開時期
著作権を譲渡する場合、二次的著作物に関する著作権法第27条・第28条の権利を含めるかも契約文言で確認します。また、著作者人格権は譲渡できないため、発注者が更新・改変する場面を想定し、権利を行使しない範囲を必要以上に広げず具体化します。
5. 契約解除とキャンセル条件
制作途中でプロジェクトが止まったとき、作業済みの報酬、確保していた工数、購入済み素材、未完成データ、アカウント権限をどう扱うかを決めておきます。「キャンセル料50%」だけでなく、進捗や工程別金額を基準に精算する方法もあります。
終了時の作業を決める
- 作業済み分と解約できない実費の精算
- 未完成データを渡すか、削除するか
- サーバーやCMSのアカウント権限をいつ解除するか
- 秘密情報、個人情報、バックアップをいつ返却・削除するか
6か月以上継続する業務委託など、フリーランス法上の条件に該当する契約を発注者が解除・不更新とする場合は、例外を除き30日前までの予告や、求めに応じた理由開示が必要になることがあります。
5項目に加えて入れておきたい条項
案件の規模や扱う情報に応じて、秘密保持、個人情報とアカウントの管理、再委託、第三者サービスの障害、損害賠償の範囲、不可抗力、反社会的勢力の排除、協議方法、準拠法・管轄裁判所も検討します。特にサーバーや顧客情報へアクセスする案件では、終了後の権限解除まで決めておくと安心です。
Web制作業務委託契約書のWordサンプル
編集して使える契約書ひな形
基本条項に加え、案件内容確認表、工程別の支払い内訳、アカウント引き渡し、締結前チェックリストを収録しています。
Word版をダウンロード【 】内を案件に合わせて編集し、不要な選択肢や条項は削除してください。
このサンプルは一般的なWeb制作業務を想定した参考資料であり、個別案件への法的助言ではありません。高額案件、個人情報を大量に扱う案件、海外取引、著作権の全面譲渡を含む案件などは、弁護士等の専門家へ確認してください。
無料テンプレートの使い方
- 【 】内を案件情報へ置き換える:当事者名、制作内容、納期、報酬、支払期日を入力します。
- 不要な選択肢を削除する:著作権の譲渡・利用許諾など、併記されている選択肢から合意した内容だけを残します。
- 見積書と内容を照合する:ページ数、機能、修正回数、工程別金額に食い違いがないか、双方で確認してから締結します。
契約前の最終チェックリスト
- 発注者・受注者の名称と委託日が記載されている
- 成果物、ページ数、機能、納品形式、納期、納品場所が具体的である
- 含まれない作業と、追加作業の見積り手順が決まっている
- 報酬額、税、実費、請求日、支払期日を確認した
- 無料修正の回数と数え方、検収期限を決めた
- 著作権、第三者素材、制作実績への掲載条件を決めた
- 途中終了時の精算とデータ・アカウントの扱いを決めた
- 口頭で決めた変更もメールやチャットに残した
案件規模別に契約書を調整するポイント
すべての案件で同じ条項を使うのではなく、金額、期間、扱う情報、外部サービスへのアクセス範囲に合わせて確認項目を増減します。
| 小規模な修正・1ページ制作 | 作業箇所、納期、報酬、修正回数、納品方法を優先。既存サイトへ触れる場合は、バックアップと不具合時の対応範囲も確認します。 |
|---|---|
| 5〜10ページ程度のサイト制作 | ページ構成、原稿・画像の担当、工程別の承認、検収、著作権、公開作業、保守の有無を具体化します。 |
| 予約・決済・会員機能を含む案件 | 外部サービスの契約者、手数料、障害時の責任、個人情報、テスト環境、公開後の問い合わせ対応を追加で確認します。 |
| 継続保守・月額契約 | 月間作業時間、依頼方法、対応時間、対象外作業、未消化時間、契約期間、更新・終了時のデータ返却を決めます。 |
金額が小さくても、既存サーバーへのアクセスや個人情報を扱う案件はリスクが低いとは限りません。報酬額だけで簡略化せず、問題が起きたときの影響も基準にしてください。
契約書についてよくある質問
見積書があれば契約書は不要ですか
見積書に作業内容と金額だけが記載されている場合、修正、検収、著作権、途中終了などの条件が不足します。見積書・発注書・契約書・メールの内容を合わせて、必要な条件が具体的に確認できる状態にします。
クライアントから提示された契約書はそのまま承諾してよいですか
自分の見積書と照合し、成果物、無償対応の範囲、支払時期、権利移転、損害賠償、解約条件に食い違いがないか確認します。理解できない条項や負担が大きい条項があれば、署名前に質問し、必要に応じて修正を相談してください。
制作途中で仕様が変わった場合はどうしますか
口頭だけで進めず、変更内容、追加料金、延びる日数をメールやチャットで整理し、双方が確認してから着手します。変更が大きい場合は、追加見積書や変更合意書として残すと後から確認しやすくなります。
無料テンプレートをそのまま使えますか
まず【 】内を案件情報へ置き換え、不要な選択肢を削除してください。テンプレートは一般的なWeb制作を想定した出発点です。高額案件、海外取引、個人情報を多く扱う案件、権利関係が複雑な案件では専門家への確認をおすすめします。
まとめ
契約書で大切なのは、難しい言葉を増やすことではなく、実際の制作工程に沿って判断基準を共有することです。作業範囲、報酬、修正・検収、著作権、途中終了の5項目を具体化するだけでも、トラブルの多くは予防しやすくなります。見積書やチャットの内容も契約書と食い違わないように整理し、変更があれば必ず記録を残してください。
参考資料
契約後の請求・経理まで一緒に準備する
契約書を作った後は、請求日、支払期限、源泉徴収の扱いを会計ソフト側でも管理できるようにしておくと、入金確認と確定申告が楽になります。


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